嵐の日曜日

100322.jpg ワイングラスのシェリーを飲み干せ~ば~……って、不思議なもので以前お店をやってるときはあれだけスコッチばっかり(=お客さんのお金)だったのに、今や飲みに出かける時にはビールやらなんちゃらハイやらの安ぅうい感じ(=自費もしくはこっちがオゴリ)のトコばっかりになりました。シェリーなんざオーダーで飲む程のお店にゃトンとご無沙汰でございます。そんな(どんな?)連休真ん中び、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 冒頭の一説は古きよき時代のロックンロールですが、関東では昨晩の嵐はものすごいことになってました。今夜の日誌ではそんな嵐の夜におきた作り話を語ってみようと、今思いつきましたのでしてみようと思います。

 例によって現時点では着地地点も内容も考えていません。「美歩と朋美という少女が二人」、「嵐の中に」、という設定だけです。




「美歩ちゃん、今夜風すごいね」「うん……始めてだねこんな夜」
それぞれのベッドの中で話し合う二人。その声より大きい強い風の音。
「すごい揺れてるけど、この家、大丈夫かな」朋美の心配げな声。
「……怖いこと言わないでよ……大丈夫だよ多分……」語尾は風にかき消される。ぎゅううううっと大きくうなる、家のきしむ音。
黙る二人。またきしむ音、もう一度先程より大きくうなる。風で飛ばされてきた何かが外側の壁にぶつかり、砕け散る音。ガンガンガンと破片が飛んでいく。家を作っている木々がついに最後の悲鳴を上げる。

「!!!」「美歩ちゃんっ!!」
メリメリッと屋根が、引き裂かれ吹き飛ぶ。同時に雨と風、木の葉や木の枝などが屋根の無くなった家の中に突撃してくる。
「きゃああああ!!!」美歩の悲鳴、同時に窓ガラスが割れていく。
吹き込んだ風はまだかろうじて持ちこたえている家の壁の内側を勢いよく吹き上がって、壁の絵も棚の食器もすべてさらって真っ暗な夜空へ突き上がる。本棚が勢いよく倒れ、飛び出した本もバサバサと舞い上がっていく。
一度倒れた本棚はもういちどふわっと浮き上がり、ガンッ!と、美歩のベッドの上に。朋美の悲鳴。

美歩は枕の方に小さくなって、壁と本棚の間にできた三角の隙間で助かっていた。驚いて朋美が、ベッドに捕まっていた手を離して、美歩の方へ駆け寄る。朋美がベッドを降りた瞬間、シーツは夜空に吹き飛んでいく。
美歩は半べその目で朋美を見つけ、倒れ掛かっている本棚の隙間から朋美のほうに手を伸ばす。朋美は美歩の手を取って強く引き寄せた。その瞬間本棚が浮き上がった。浮き上がった本棚はどこかから飛んできた丸太と空中で衝突し、木っ端微塵になって嵐に消え、次に、その中へと美歩のベッドも一緒に飛んでいった。

「朋美、朋美っ!」「美歩ちゃん大丈夫!?」
朋美に抱きつく美歩。叩きつける雨で、びっしょりと濡れた朋美の髪が、美歩の顔を暴れながら叩く。家の向こう側の壁、割れた窓のさらに向こうから、巨木が矢のように突っ込んでくるのが見える。あれを喰らったらオシマイだ。

「美歩ちゃん逃げなきゃ!」朋美の声は風にかき消されるが、身振りで美歩は朋美の意志を読み取り、立ち上がろうとする。その時、美歩の体がもろに風を受けて浮き上がってしまう。
「うわあああああ!!」空中で手を伸ばす美歩、ありったけの声で朋美を呼ぶ。朋美は力いっぱい飛び上がり、手を伸ばして美歩の手を捕まえた。巨木が割れた窓を突き抜けて、突っ込んできた。飛び上がった朋美の足の下を強大な巨木がめりこみ、そのまま壁に穴を開けて、床へと刺さった。巨木は壁ごと回転を始め、そのままなぎ倒す。家が崩壊する。壁にしがみついていた朋美の手は離れ、二人の体は制御できなく浮き上がり、空に消えていく。

うわあああああああ!と叫び声は風にかき消された。巨大な怪物が街を襲ったように、激しい爪あとがいたるところに残されている。二人はまだ飛ばされずに大きくしなっている巨木に叩きつけられた。しかしうまく枝に引っかかった。
「美歩ちゃんっ!!美歩ちゃんっ!!」「はぐうううう!!」なんとか体勢を立て直した朋美、歯を食いしばって木にしがみつく美歩。


そして突然の沈黙。静寂。

「!!?」「!!!はぅっ?」

低気圧の中心、つまり台風の目だ。風がぴたりと止む。しなっていた木が一気に引き戻る。
「わあああ!!」「うわあああああああああ!!」
戻った木にびゅんっと飛ばされ、ぬかるんだ土の上に転げ落ちる二人。「大丈夫美歩ちゃん!?」いち早く立ち上がった朋美は美歩の所へ駆け寄る。なんとか起き上がろうとする泥まみれの美歩の手をとって立たせる。「美歩ちゃん今のうちにどこかへ隠れなきゃ!」「か、隠れるってど……どこへ?」「風の来ないところ!」「……教会の壁ならまだ大丈夫かも」「それだ!走れる?」

二人は何とか、走って教会の裏手まで来た。が、そこには既にたくさんの避難民達が。「悪いが、もう満員だよ」「そんなっ」
向こうからゴオオオッとうねりが近づいてくる。また暴風域に入るのだ。朋美は必死に二人ぶんあけてれと頼んでいる。しかしヒトのことまで構っていられない避難民のうちの一人が朋美を突き飛ばした。

「朋美ッ!」駆け寄る美歩。もう、暴風域まであと少し。美歩は、悔しそうな、朋美の泥だらけの顔を拭った。その時、何かに気がつく美歩。「朋美、こっち」美歩は教会の表側に朋美を連れて行く。

「美歩ちゃん!こっちじゃもろに風を受けちゃうよ!!裏側じゃないと!」暗闇の中、すぐそこにまで風を引き裂く音が迫っている。
「朋美、姿勢を低くして!何でもいいからそのあたりの木に捕まって!」「無理!!あの風の中じゃもたないよ!」「いいから早く!」「無理だって」「伏せれええ!」ついに朋美も観念したように、美歩の隣で伏せた。巨大な音が二人を包んでいく。


「ぎゃあああああああああ!!!」

――悲鳴は教会の裏から聞こえた。朋美と美歩は無事だった。この風なら何とかしのげる。「!?……なんで?……あれ美歩ちゃん、何でこっちが風よけられてるの?」「低気圧の目を通過したから、風向きは逆になるでしょ」「……あっ……そうか……よく冷静に……」「私もそう思う」「……あきらめちゃダメなんだね」

「……どうやってオチにするんだろうって、さっきまでまるでわかんなかったもの」
「私は絶対ギャグオチに逃げると思った」「また挿絵関係ないね」「先に描いちゃったんじゃないかな……?」

あきらめちゃダメなんだね。びっくり。




私信:Polさん一番乗りでしたよ☆