夕暮れの教室。放課後、薄暗い教室、窓側一番後ろに一人の男子学生。机にむかって一心不乱にノートに鉛筆を走らせている。その学生は中村君。その教室、後ろ側の出入り口の引き戸が開き、一人の男子学生が入ってくる。入ってきた学生は高石君。頬や、目の上あたりが青紫色に腫れている。
高石:「まいった・・・鈴木のバカ(←担任)に更衣室でタコ殴りにされた・・・くそ・・・」
中村:「おまえ、めちゃめちゃ嫌われてんなあ」
書きモノを止め、中村は高石を見る。殴られ跡が生々しい高石はそのまま、中村の前の席へ。窓に背中を向けてすわり、しばし顔をさする。本当は怒りをぶちまけたいが、口の中が腫れてて奥歯に肉が挟まって痛いので、あまり喋りたくない。そして、中村のノートに目をやる。
高石:「・・・はへ?(あれ?←以降解り難いので標準語で)、ああ、お前、小説家になるんだっけ?」
中村:「いや、小説じゃなくても、放送作家(←だったかな)でも何でも良いんだ。お話が作れるなら。・・あ、そうだ、これ」
中村、机にかけたかばんから、一冊のノートを取り出し、高石に渡す。高石、ぱらぱらと開けてみる。鉛筆の文字で埋まっている。びっしり書き込まれた「物語」
中村:「あのさ、ここの・・・このページから、ここまで、読んでみてくれないかな。主人公は五十嵐(←可愛い)がモデルで、宇宙ものなんだけど・・・」
高石:「おお、すげぇ・・・」
高石、パラパラとめくる。いちおう読んでいるフリをする、が、実はまったく興味が無い。目が字を追っているだけ。内容などはまるで理解しようとしていない。しかし、中村に悪いので、数分黙ってノートをめくる。高石の頭の中では、暴力担任鈴木をぶちのめしている映像だけが浮かんでいる。
高石:「・・・すごいな。こんなにたくさん、どうやって書いたんだ?」
内容を読んでいないので、こんな感想しか聞けない。しかも、「どうやって書いた」なんて、微妙すぎる感想。今ならもっと気の聞いたことがいえるのに。悪かった中村。でも、嬉しそうに応える中村。目が、ほんとに嬉しそう。
中村:「いやぁ、けっこう時間は掛かったよ。実は同じ題名で、過去に一作捨てているんだ。それはテーマがね・・・(以下忘却の彼方の為、省略)」
中村と帰り道が同じ方向の高石。別に約束していた訳ではないが、待ってくれていたようで、なんとなく先に帰るとも言い出せない。しかし、いよいよ暗くなってきた。本当は早く帰って、途中のゲーセンでダライアスをやりたかった。もっとも、中村が居ないと先に進めない(一人だと、ボスを倒せない高石)のだが。中村の満面の笑み演説の中、黙って聞いているだけなのもまずいかなと思い、さらに適当な相槌を打つ高石。
高石:「へぇ~、オマエ才能有るよ。でもこういう話って、どうやって思いつくんだ?」
中村の言葉が詰まる。一瞬、何故沈黙したかがわからない高石。どぎまぎしてしまう。
中村:「・・・それ、前、誰かにも言われたんだ。でも、わかんないんだよ。その過程が解らないんだ。お話を作ることは出来るのだけど、それまでの過程を説明できないんだ」